疫学
欧米に比較すると1/5-1/10程度ですが、日本人の肺塞栓は増加傾向にあります。 (J Cardiol. 2015; 66: 415-59.)
欧米人が多いのが、肥満の割合が高い、凝固異常(factor V leiden異常、プロトロンビン遺伝子変異、など)が多い、などが原因です。
増加傾向にあるのは単純に日本人の欧米化による部分もあるし、検査の充実化により今までは見過ごされてきた肺塞栓が見つかるようになってきたというのもあります。 (J Cardiol. 2015; 66: 415-59.)
リスク因子としては、①悪性腫瘍、②直近での手術(3ヶ月以内など)、③寝たきりなどで動けない、が多いです。 (J Cardiol. 2015; 66: 415-59.)
症状
特異的な症状はありませんが、、、呼吸苦、胸痛が主訴になる場合があります。(J Am Coll Cardiol. 2011; 57: 700-6.)
低血圧、失神、などがある肺塞栓であれば重症度が高く死亡率も上がります。(J Thromb Haemost. 2008; 100: 937-42.) (Eur Heart J. 2018; 39: 4186-95.)
無症状の場合もあるし、他疾患の精査をしている間に肺塞栓が明らかになる場合もあります。
大事なことは、あらゆる症例に対して、常に「肺塞栓ではないか」という視点を持つことです。
分類
①時間での分類
主に3つに分類されるます。
A) Acute:すぐに
B) Subacute:数日~数週間
C) Chronic:数年経過したあとに肺高血圧症で発見される(→CTEPH)
②症状での分類
AHAとESCで分類が異なります。
A) 重症 AHA:massive PE、ESC:High risk PE
→ショックを伴うものなど(後述)
B) 中等症 AHA:submassive PE、ESC:intermediate risk PE
→右室負荷を伴うものなど(後述)
C) 軽症 AHA:low risk PE、ESC:low risk PE
→A, Bに該当しないもの
最近ではESCの呼び方のほうが一般的です。massiveは血栓の大きさなどではなく重症度のことを表していることに注意です。
重症か、それ以外か、によって対応が違ってくるので注意が必要です。その境界は「ショックか否か」。ショックがあれば重症だし、ショックでなければそれ以外になります。
ショックを伴わない肺塞栓 診断までの手順
①Clinical Prediction Ruleを用いて肺塞栓らしさを見積もる
②Highであれば造影CTで診断を確定
③Low~IntermediateであればD-dimerを測定、D-dimerが基準値以上であれば造影CTで診断を確定
といった流れになります。
ここで理解しておくべきは
A) Clinical Prediction Ruleの使い方
B) D-dimerの扱い方
C) 造影CTの解釈
の3点になります。
A) Clinical Prediction Rule
Well’s Criteria、Geneva score、の2つが有名。そしてそれぞれに簡略化されたバージョン(Simplified)もあり、合計4つがあるという認識でよいと思います。
重要なのは、いずれをつかっても識別能に差はないということ。 (Ann Intern Med. 2011; 154: 709-18.)
なので使いやすいものを使えば良いと思います。肌感覚ではWell’sを使っている人が多い印象。
・Well’s criteria
Well’s Criteria | Original | Simplified |
---|---|---|
PE・DVTの既往がある | 1.5 | 1 |
HR > 100/min | 1.5 | 1 |
4週間以内に手術or動けない | 1.5 | 1 |
喀血 | 1 | 1 |
活動性の腫瘍 | 1 | 1 |
DVTの臨床症状がある | 3 | 1 |
他の鑑別診断が肺塞栓よりも可能性低い | 3 | 1 |
Original >4:肺塞栓の可能性が高い Simplified >1:肺塞栓の可能性が高い |
・Geneva score
Geneva score | Revised | Simplified |
---|---|---|
PE・DVTの既往がある | 3 | 1 |
年齢>65歳 | 1 | 1 |
4週間以内に手術or下肢骨折 | 2 | 1 |
喀血 | 2 | 1 |
活動性の腫瘍(直近1年間) | 2 | 1 |
片側性の下肢痛 | 3 | 1 |
HR = 75-94 /min | 3 | 1 |
HR ≧ 95 /min | 5 | 2 |
下肢静脈触診で疼痛+片側性浮腫 | 4 | 1 |
Revised ≧6:肺塞栓の可能性が高い Simplified ≧3:肺塞栓の可能性が高い |
Well’s criteriaにもGeneva scoreにも二段階法と三段階法がありますが、どちらを使用しても問題ありません。
身も蓋もない話ではありますが、これらのClinical Prediction Ruleは臨床医の”勘”よりも診断精度が劣ったという報告もあります。(Ann Emerg Med. 2013; 62: 117-24.)
絶対的なClinical Prediction Ruleは存在せず、あくまで客観的なツールの1つとして利用するという認識が必要です。
・PERC
本題とはずれますが、肺塞栓を除外するためのClinical Prediction Ruleとして「PERC:Pulmonary Embolism Rule-out Criteria」が存在します。
感度96%、特異度27%、と報告されており (J Thromb Haemost. 2004; 2: 1247-55.)、除外においてはかなり有用なツールです。自分もこのルールを使用して、十分に除外できる症例については肺塞栓を鑑別から外して考えるようにしています。
PERC rule |
---|
年齢 ≧ 50歳 |
HR ≧ 100 /min |
SpO2 < 95% |
片側性下肢腫脹 |
血痰 |
4週間以内の手術ないしは外傷 |
PEやDVTの既往がある |
エストロゲン製剤などホルモン剤の使用 |
いずれも該当しなければ、高感度で肺塞栓を除外できます。
残念ながらルール上50歳以上には使用できないので、対象は限られることが難点です。
B) D-dimer
Clinical Prediction RuleでHigh riskでなければ測定します(Low risk – Intermediate riskであれば測定します)。
500 ng/mLをカットオフにすると、感度95%、特異度45%、と報告されています。 (Ann Intern Med. 2004; 140: 589-602.)
これだと特異度が低すぎるので、無駄なCT撮影が増えてしまう、、、
そのため開発されたのが、「Age adjusted D-dimer」という概念。
「年齢×10 ng/mL」をカットオフにする(例えば70歳だったら700 ng/mLをカットオフに設定する)というもので、これを使用すると見逃しを増やすことなく、検査不要な症例を除外できた(従来のもの vs Age adjustedで6.4% vs 29.7%、除外できた)という報告があります。(JAMA. 2014; 311: 1117-24.)
その他、症状に合わせてD-dimerのカットオフ値を決めるという「YEARS criteria」というものも開発されています。
その他、このYEARS criteriaの臨床症状の代わりに、Well’s criteriaやGeneva scoreの3段階法を用いてもよいという報告もあります。つまり、Well’sやGenevaの3段階法でLow riskであればD-dimerのカットオフは1000 ng/mL、Intermediate riskであればD-dimerのカットオフは500 ng/mLに設定する、というものです。
500 ng/mLをカットオフにするとややオーバーになってしまいますが、以上紹介した
①Age adjusted D-dimer
②YEARS criteria
③Well’s or Genevaに応じたD-dimerカットオフ値の設定
のいずれも大きく差はないと言われております。
個人的にはAge adjusted D-dimerが使いやすく、これを使用しています。
C) 造影CT
肺塞栓を診断するにあたって、必要不可欠な検査です。
全体として感度83%、特異度96%と言われていますが、Clinical Prediction Ruleと合致しなければ結果は信頼できないという報告もあります。この報告では、Clinical Prediction RuleでHighにもかかわらずCTAで陰性であっても陰性尤度比は60%、逆にClinical Prediction RuleでLowにも関わらずCTAで陽性の場合陽性尤度比は58%、とされています。
偽陽性になってしまう原因としてはMortion Artifactなどが多いとされています。 (Radiographics. 2004; 24: 1219-38.)
近年は検査精度の向上によってかなり小さな肺塞栓も見られるようになってきています。肺動脈の分枝の一番細かいところにある肺塞栓を「Sub segmental PE」と呼びますが、これに対して抗凝固などの治療を始めるかどうかについてはcontroversialです。膝関節よりも近位のDVT、肺塞栓のリスクファクターがない、などの条件下では治療はせず経過観察でよいのではないかとの報告もあります。 (Chest. 2016; 149: 315-52.)
D) その他 エコー
診断においては補助的な役割ですが、その後のリスク評価においては重要な役割を持っているので、肺塞栓の診療において心エコーは必須といえます。いわゆる「右室負荷所見」というのをみるために行いますが、その右室負荷所見というのは以下のとおりです。
その中でも特に指標として有用なのが、①右室/左室比>1.0、②McCornell sign、③TAPSE、の3つ。
①右室/左室比 >1.0
4 chamber viewで見れば一目瞭然。右室のほうが大きければ右室負荷がかかっていると判断する。これを短軸像でみるといわゆる「D-shape」というのが見られることも。
②McCornell sign
右室自由壁の運動が亢進し、それ以外の部位の壁運動は低下する、というもの。肺塞栓に特異的であり、感度は20%程度と低いものの、特異度は100%とする報告もあります。(Ann Emerg Med. 2014; 63: 16-24.)
わかりやすい動画がYoutubeにアップされているので、そちらもご参考にしてください。
③TAPSE (Tricuspid Annular Plane Systolic Excrusion)
右心室は収縮するときに三尖弁が心尖部側に移動しますが、肺塞栓など右室負荷がかかっていると収縮が不十分でこれがみられなくなるというものです。
心尖部から右室側壁の弁輪にカーソルを向けてMモードで測定をします。
TAPSE < 16mmで感度64%、特異度61%と報告されています。(J Am Soc Echocardiogr. 2017; 30: 714-23.)
E) その他 心電図
肺塞栓においてはあまり特異的な所見が得られることはありません。
洞性頻脈や心房細動が多いとされております。
有名なSⅠQⅢTⅢは感度8.5%、特異度97.7%と報告されており、かなり稀ではあるが見られたら肺塞栓を疑う根拠にはなりそうです。(Ann Emerg Med. 2010; 55: 331-5.)
ショックを伴わない肺塞栓 診断したあとの対応
大事なことは
✓リスク分類をしっかり行うこと
✓基本的にはどの分類であっても抗凝固療法は必須であること
✓外来治療が可能か判断すること
の3つです。
A) リスク分類
ESCガイドラインでは、High、Intermediate-high、Intermediate-low、Lowの4分類に分かれています。(AHAガイドラインではMassive、Submassive、Lowの3分類)
概ねの対応関係としてはHigh risk→Massive、Intermediate risk→Submassive、Low→Low、となっています。
最近ではESCガイドラインに則るべきという見解が多く、こちらで紹介します。
少しややこしいですが、簡単に言えば
ショックの場合→High risk
ショックでない場合→Intermediate-high risk, Intermediate-low risk, Low riskのいずれか
その中でも
✓PESI class3以上、エコーやCTで右室負荷所見あり、トロポニン上昇、の3つを満たせばIntermediate-high risk
✓PESI class3以上だが、右室負荷所見・トロポニン上昇のいずれかが当てはまらない場合はIntermediate-low risk
✓PESI class3未満の場合はそれ以外がどうであれLow risk
ということです。
※PESI:pulmonary embolism severity index
肺塞栓の死亡率予測スコア。重症度分類をする上では必須であり、肺塞栓の診療においては欠かせない。
PESI | Original | Simplified |
---|---|---|
年齢 | 年齢×1 (50歳なら50点) | 80歳以上:1 80歳未満:0 |
男性 | 10 | 0 |
悪性腫瘍 | 30 | 1 |
心不全 | 10 | 1 |
慢性肺疾患 | 10 | |
HR ≧ 110 /min | 20 | 1 |
SBP < 100 mmHg | 30 | 1 |
RR ≧ 30 /min | 20 | 1 |
体温 < 36 ℃ | 20 | 0 |
SpO2 < 90% | 20 | 1 |
意識障害 | 60 | 0 |
(PESI) Low risk Class 1:≦65、Class 2:66-85、 High risk Class 3:86-105、Class 4:106-125、Class 5:>125 (simplified PESI) Low risk 0点 High risk 1点以上 |
※右室負荷所見
エコーでの評価は上に記載した通りです。
CTでの評価方法はいろいろありますが、簡単なものであれば「右室径/左室径≧1.0」が簡便かと思います。(そもそもエコーベースで考えることがほとんどで、CTで評価することは多くないかもしれません)
B) 抗凝固療法
基本的に全例で必須です。手段としては、
①ヘパリン、低分子ヘパリン、フォンダパリヌクスから開始、以降はDOACやワーファリンに切り替える
②最初からDOACやワーファリンを使用する
の2つ。
さきほどのPESIに応じて入院or外来、治療、の大まかな方針を立てます。
Intermediate high risk → 入院、治療は①
Intermediate low risk → 入院、治療は①あるいは②
Low risk → 外来治療も検討、治療は②
(Ann Emerg Med. 2023; S0196-0644)
①ヘパリン、低分子ヘパリン、フォンダパリヌクスから開始し、以降はDOACに切り替える
一番多い方法かと思われます。Intermediate riskの場合は2-3日の急性期をすぎるまではHigh riskに進行する可能性があり、入院の上、強度の高い治療をするべきと考えられています。
CCr < 30の場合は未分画ヘパリンを使用します。
ESCガイドラインでは、80単位/Kgをまずボーラス投与し、18単位/Kg/時の持続投与を行い、その後はAPTT比を1.5-2.5倍にコントロールするように投与量を調整するというのが推奨されています。投与量はガイドラインによって異なりますが、投与量よりもAPTTに応じてコントロールするという考えのほうが重要です。
ヘパリンの投与期間は5-7日投与した場合と10-14日投与した場合で治療効果が変わらないという報告もあり(N Engl J Med. 1990; 322: 1260-4.)、なるべく早期にDOACに切り替えるのが推奨されております。
CCr > 30の場合はフォンダパリヌクス(アリクストラ®)、あるいは低分子ヘパリンとしてダルテパリン(フラグミン®)、エノキサパリン(クレキサン®)、を使用します。ただし低分子ヘパリンは肺塞栓に対して保険適応外であるため、本邦ではフォンダパリヌクス(アリクストラ®)を使用することが多いかと思われます。
★フォンダパリヌクス(アリクストラ®)
<50Kg: 5mg, 50-100Kg: 7.5mg, >100Kg: 10mg、24時間ごとに皮下注
ヘパリンやフォンダパリヌクスを急性期で使用した場合は、速やかにDOACやワーファリンに切り替えます。
A) ヘパリン/フォンダパリヌクス → ワーファリン の切り替え
ヘパリン・フォンダパリヌクスは最低5日間は継続、ワーファリンを早期に開始し、PT-INR 2.0-3.0(日本では1.5-2.5)を2日間達成したら移行する
B) ヘパリン/フォンダパリヌクス → DOAC の切り替え
ヘパリン・フォンダパリヌクスを5日間継続し、その後移行期間不要でDOACに切り替える
②最初からDOACやワーファリンを使用する
外来治療が可能ならLow riskであったり、重症度の高くないIntermediate riskであればこちらを選択するのも悪くありません。
肺塞栓においてもワーファリンよりもDOACのほうが出血リスクが少ないことは示されており、腎機能さえ許せばDOACを使用します。
ただし、ヘパリンなどを使わずに最初から経口薬のみの治療を開始してよいのは、
アピキサバン(エリキュース®) (N Engl J Med. 2013; 369: 709-808.)
リバーロキサバン(イグザレルト®) (N Engl J Med. 2012; 366: 1787-97.)
のみです。
エドキサバン(リクシアナ®)、ダビガトラン(プラザキサ®)はまずヘパリン・低分子ヘパリンを使用してから切り替えて開始するという方法しかエビデンスが出ておりません。(これから変わるかもしれません)
※IVCフィルター
症例を選ばなければ静脈血栓塞栓症の予防効果はないと報告されており、抗凝固療法が問題なく始められる場合、検討する必要性はありません。(JAMA. 2015; 313: 1627-35.)
消化管出血など活動性出血があり、抗凝固療法がすぐには始められないときのみ検討してもよいとされています。(Am J Med. 2012; 125: 478-84.)
C) 外来治療が可能か?
再発などの可能性が低い場合は、経口抗凝固薬(DOAC or ワーファリン)を導入して外来治療、というのも可能です。その際に参考にすべきなのは「Hestia criteria」。
Hestia criteria |
---|
①血行動態不安定 |
②血栓溶解療法や血栓回収療法が必要 |
③活動性出血がある、あるいは出血リスクが高い |
④SpO2>90%を維持するのに24時間以上の酸素投与が必要 |
⑤肺塞栓の診断が抗凝固療法開始よりも後に行われた |
⑥疼痛がひどく、IVでの鎮痛薬投与が24時間以上必要 |
⑦肺塞栓以外の理由で24時間以上の入院が必要 |
⑧重篤な肝機能障害がある |
⑨妊娠している |
⑩HITの既往がある |
これらすべてに当てはまらなければ外来治療可能 |
Hestia criteria、PESIでLow risk、simplified PESIでLow riskであれば外来治療でも有害事象は少ないという報告もあります。(Acad Emerg Med. 2021; 28: 226-39.)
なるべく外来治療が可能かを検討するという姿勢が重要です。
ショックを伴う肺塞栓への対応
いわゆるHigh risk PE (: Massive PE)についてです。
ショックを伴っている場合、造影CTなどをとって診断を確定させている余裕はありません。エコーや病歴などで肺塞栓による閉塞性ショックを疑ったのであれば、まず治療を優先させます。
まずやることは、
①ヘパリン 80単位/Kg 投与
②心電図・心エコー
③必要であれば酸素投与
④ショックに対して200-500mLの細胞外液投与
⑤強心薬、昇圧剤の投与
⑥必要であれば気管挿管、人工呼吸器管理
⑦それでも安定化しなければVA-ECMOを導入
です。
この後CTを撮影、CTで肺塞栓が明らかになれば再灌流療法を行います。
酸素
肺塞栓では、可能であれば人工呼吸器は避けたいです。これは、
①陽圧換気により静脈還流量が低下し、心拍出量が低下する
②麻酔導入により血行動態が更に破綻しやすい
という2つの理由があります。
ただし低流量酸素投与では酸素化が安定しない場合は、やむを得ず挿管が必要になります。このときは血行動態に影響を与えにくいケタミンを麻酔導入で使用する、挿管後陽圧をかけすぎない、ノルアドレナリンなど昇圧剤のサポート下で行う、などの対応が必要になります。(Crit Care Clin. 2020; 36: 505-15.)
輸液
ショックだからといって過度な輸液はさらに肺血管抵抗の上昇を招き、病態を悪化させます。(Crit Care Clin. 2020; 36: 505-15.)
もともと肺塞栓では血栓によって通過障害があり、血流を担保するために肺血管抵抗が上がっている状態なので、あまり肺血管抵抗を上げることはしたくないというのが背景にあります。
かといって輸液しなさすぎても右室からの拍出量が担保できないためそれはそれでショックを助長させるという面もあります。(Crit Care Med. 1999; 27: 540-4.)
肺塞栓におけるボリューム管理はcontroversialな部分が多く、未だに結論が出ていませんが、500mL程度の細胞外液で反応性がないショックであれば、早期に昇圧剤投与を始めてしまう、というのが推奨されています。
昇圧剤
ノルアドレナリンが第一選択になります。肺血管抵抗に影響を与えることなく体血管抵抗のみに作用するためです。(Anesthesiology. 1984; 60: 132-5.)
ドブタミンは右室収縮をサポートしますが、血圧低下をおこすリスクがあること、頻脈を助長させる可能性があること、などから単独では使用しにくいです。
ECMO
様々な手段でもstabilizeができなかった場合はVA-ECMOの導入を検討します。
ヘパリン投与後だとシース留置時に出血の懸念があるので、肺塞栓によるショックかな?とおもったらECMOまで見越して早期にシース留置しておいたほうがよいかもしれません。
ECMOを使用した場合はその後の血栓溶解療法(tPAなど)は行えず、経カテーテル治療、あるいは外科的治療を検討します。
再灌流療法
①血栓溶解療法
High risk PEに対しては治療効果が認められております。(Am J Med. 2012; 125: 465-70.)
一方でIntermediate risk以下の肺塞栓では死亡率を改善せず出血リスクだけ上がると報告されており、使用は推奨されていません。(N Engl J Med. 2014; 370: 1402-11.)
投与禁忌も多いので、投与前に確認すべきでしょう。
②経カテーテル治療
血栓を吸引する、破壊する、などの方法があります。
ECMO導入例や血栓溶解療法禁忌の場合は治療選択肢として考慮します。
③外科的治療
血栓溶解療法と比べて治療効果は変わらないという報告もあり、経カテーテル治療と同様にECMO導入例や血栓溶解療法禁忌の場合は治療選択肢として考慮します。(J Thorac Cardiovasc Surg. 2018; 155: 1084-90.)
まとめ
✓ショックを伴うかそうでないかで対応が異なる
✓様々なスコアリングを使いこなす
肺塞栓診断スコア→Well’s、Geneva
肺塞栓除外スコア→PERC
肺塞栓リスク分類スコア→PESI
肺塞栓で帰宅可能か判断するスコア→Hestia
以上、複雑な肺塞栓診療についてまとめてみました。
一度流れを頭にいれてしまえばスムーズに診療できるようになると思いますので、ぜひご参考頂ければ幸いです。