肺胞気式とA-a DO2

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肺胞気式

PAO2 = 150 – PaCO2/0.8
(PAO2:肺胞内酸素分圧、PACO2:肺胞内二酸化炭素分圧、PaCO2:動脈内二酸化炭素分圧、PaO2:動脈内酸素分圧、)

この方程式を肺胞気式と呼びます。皆さん一度は目にしたことがあるのではないでしょうか?
肺胞内の酸素と二酸化炭素のやり取りを考える上で、とても重要な式です。導出にはいろんな法則(気体の状態方程式、ドルトンの法則、など)を理解する必要がありますが、そういうのは抜きにして、簡単に説明します。

肺胞に入ってくる酸素は、二酸化炭素と交換する形で血液内に取り込まれ、その余りはまた酸素として呼出されます。つまり、
・肺胞に入ってくる酸素 = 二酸化炭素と交換され血中に取り込まれる酸素 + 肺胞から呼出される酸素

という関係性が概ね成り立ちます。ややこしいので詳細はカットしますが、条件を整えて気体の体積を分圧で表せる条件下で考えると、

・肺胞に入ってくる酸素分圧 = 二酸化炭素と交換され血中に取り込まれる酸素分圧 + 肺胞から呼出される酸素分圧

となり、
肺胞に入ってくる酸素分圧 = 大気中の酸素分圧 (PIO2、とします)
肺胞から呼出される酸素分圧 = 肺胞内の酸素分圧 (PAO2、のことです)
と解釈することもできるので、

・大気中の酸素分圧(PIO2) = 二酸化炭素と交換され血中に取り込まれる酸素分圧 + 肺胞内の酸素分圧(PAO2)

という関係性が成立します。

①肺胞に入ってくる酸素分圧(PIO2)は、

・(大気圧 – 水蒸気圧) × FiO2
で表現され、それぞれ通常値として、大気圧 = 760mmHg、水蒸気圧 = 47mmHg、FiO2 = 0.21、を代入すると、

・(760 – 47) × 0.21 ≒ 150
となります。

②二酸化炭素と交換され血中に取り込まれる酸素分圧は、
概ね「O2 : CO2 = 10 : 8」程度で交換されるとされており、

・二酸化炭素と交換され血中に取り込まれる酸素分圧 = PACO2 / 0.8
となります。ここで、CO2は拡散力が高く血液内と肺胞内の分圧がすぐに等しくなるという性質を考えると、PACO2 = PaCO2、となり、

・二酸化炭素と交換され血中に取り込まれる酸素分圧 = PaCO2 / 0.8
となります。

以上のことから、
・大気中の酸素分圧 = 二酸化炭素と交換され血中に取り込まれる酸素分圧 + 肺胞内の酸素分圧
⇔ PIO2 = PaCO2 / 0.8 + PAO2
⇔ 150 = PaCO2 / 0.8 + PAO2
⇔ PAO2 = 150 – PaCO2 / 0.8
と肺胞気式を導くことができます。

ここで大事なのは、PAO2 は PaCO2 によって規定されるということです。つまり、血中の二酸化炭素濃度が多ければその分肺胞内に占める二酸化炭素濃度が増え、その分だけ肺胞内の酸素濃度が減る、という関係があるということです。

A-a DO2

英語では「Alveolar arterial oxygen difference」
肺胞(A)と動脈(a)の酸素分圧の差を表します。つまり

・A-a DO2 = PAO2 – PaO2
です。さきほどの肺胞気式を当てはめると、

・A-a DO2 = 150 – PaCO2 / 0.8 – PaO2
となります。

完璧なガス交換が行われ、肺胞内酸素分圧と血液内酸素分圧は等しくなり、A-a DO2 = 0となる、というのが理想的ではありますが、ある程度の誤差はあるとされています。正常でも5-10程度はA-a DO2は開大してしまいます。

ガス交換が阻害されるとA-a DO2は開大します。詳しくは別記事をご参照頂ければと思いますが、低酸素血症の病態として、①V/Q mismatch、②シャント、③拡散障害、④肺胞低換気、があります。このうち①~③はガス交換系が阻害されるため、A-a DO2は開大します。

④肺胞低換気、では理想的にはガス交換系が阻害されることはないためA-a DO2は開大しません。しかし、①~③の病態が背景にあって呼吸筋疲労が起こり肺胞低換気になってしまうケースや、逆に肺胞低換気により無気肺などが起こって①~③の病態を合併してしまうケースでは、A-a DO2は開大してしまいます。純粋な肺胞低換気だけ、という症例はあまりないような気がします。

さらにいえば、加齢によりV/Q mismatchが増えることが報告されており、特に疾患肺でなくても年齢が高くなればA-a DO2は開大します。健常人では「A-a DO2 = 2.5 + 0.21 × 年齢」が正常値になるという報告もあります。100歳であればなんと23.5!
FiO2に左右されるなども含め修飾因子が多く、A-a DO2の具体的なカットオフは決まっていないというのが実情です。
教科書的には低酸素血症の鑑別においてA-a DO2が有用とされておりますが実臨床だとそこまで重要な意味合いはないのかもしれません。

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