CRRTの基本

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用語の整理

・拡散(diffusion)で行う血液浄化を血液透析(hemodialysis)という
・濾過(convection)で行う血液浄化を血液濾過(hemofiltration)という

・血液濾過の中でも透析液(後述)を戻さないのを特に限外濾過(ultrafiltration)という

・24時間以上続ける血液浄化をCRRT(Continuous renal replacement therapy)という
・24時間以内で終わる血液浄化をIRRT(Intermittent renal replacement therapy)という

※IHFは効率が悪く、ほとんど行われることはありません。
※IRRTとCRRTの中間として、8-12時間ほどで透析を行う「SLED:sustained low-efficiency dialysis」というものもあります。

拡散

拡散とは、濃度の異なる溶液を膜を隔てて接触させたとき、濃度勾配に従って、溶質が濃度の低い方から濃度の高い方に移動することを意味します。
溶質は膜に空いた小さな穴(膜孔)を通って異なる溶液同士を移動するため、膜孔のサイズよりも小さな分子が移動します。
拡散では自然な濃度勾配に従って移動するため、小分子の除去に優れています。

拡散の効率を規定するものは、
①溶質の分子量:分子量が小さいほど移動速度が早く拡散効率がいい
②溶液の温度(T):溶液の温度が高いほど分子運動が増え拡散効率がいい
③溶質の濃度勾配(dc):溶質の濃度勾配が高いほど拡散効率がいい
④膜の大きさ(A):膜の表面積が大きいほど拡散効率がいい
⑤膜の性状(dx):膜孔のサイズが大きく、膜孔の数が多く、膜の厚みが薄いほど、膜での抵抗が少なく拡散効率がいい
です。

これを数式化すると
Jxd = D × T × A × dc / dx
(Jxd: 拡散能、D: 拡散係数(溶質の分子量など分子の性質)、T: 溶液の温度、A: 膜の表面積、dc: 濃度勾配、dx: 膜抵抗)
となります。

濾過

濾過とは、濃度の異なる溶液を膜を隔てて接触させ、一方に陽圧、もう一方に陰圧をかけることにより、水分と膜孔を通過できる分子が一方に移動することを意味します。
圧力に応じて移動するため、拡散では難しい中分子の除去や、除水を行うことができます。

濾過の効率を規定するものは、
①膜間圧較差(TMP):圧較差が大きい方が濾過効率がいい
②ふるい係数(SC):各分子に対する膜の性質、膜を挟んで2つの溶液の濃度比、1に近いほど濾過効率がいい
③限外濾過率(UFR):水の濾過効率を表す指標、高い膜ほど効率がいい
④溶質血中濃度(Cb):溶質濃度が高いほど濾過効率がいい
となります。

これを数式化すると、
Jxc = UFR × TMP × SC × Cb
(Jxc: 濾過能、UFR: 限外濾過率、TMP: 膜間圧較差、SC: ふるい係数、Cb: 溶質血中濃度)
となります。

拡散と濾過の比較

まとめるとこのような形になります。

回路の構造

血液浄化では主に2つの回路が存在しており、1つは患者側の回路、もう1つは透析液や排液の回路、です。これらの回路はダイアライザーを通して接しています。お互いの回路の方向は逆向き(対向流)ですが、これは透析効率を上げるためです。

回路内には、
QB:血液流量、QD:透析液流量、QE:濾液流量、QF:濾過流量、QS:補液流量、QUF:除水量
という6つの流量があります。(抗凝固薬はごく少量なので考慮する必要はありません)
QUFは画像には示してないですが、QFやQSなどから計算した正味の除水量のことです。

ここでは、
QE = QD + QF
QF – QS = QUF
という2つの関係式が成立します。

機械においては
QB:血液流量、QD:透析液流量、QS:補液流量、QE:濾液流量
を設定します。
(6つの変数に対して2つの式があるので、4つの変数が残る)

機械の画面上は濾過ポンプ、濾液流量、といった表記がされますが(機械によってバラバラです)、大事なのはこれらは「QEを表している」ことです。紛らわしいですがQFのことではありません。

クリアランス

透析効率は各種の流量によっても規定されます。その概念として重要なのがクリアランスです。

クリアランスは、「単位時間あたりの除去量 / 濃度」、で定義されます。

単位時間あたりに除去される溶媒の量は、廃液の流量と濃度から「QE × CE」と計算できます。そのためクリアランスは、もともとの血中濃度をCBとすると、
K = QE × CE / CB -①
(K: クリアランス、QE: 廃液速度、CE: 廃液濃度、CB: 血中濃度)
と表せます。

「QE = QD + QF」 であるため、①に代入すると、
K = QE × CE / CB -①
= QD × CE / CB + QF × CE / CB
となります。

このうち前項の「QD × CE / CB」が拡散によるクリアランス(KD)を、後項の「QF × CE / CB」が濾過によるクリアランス(KF)を表しています。

つまり、
拡散クリアランス:KD = QD × CE / CB
濾過クリアランス:KF = QF × CE / CB
と表せます。

ここで同様に血液側の立場で考えてみると、単位時間あたりに除去される溶質の量は「QB × (CB – C0)」であるため、拡散クリアランスKDは、
拡散クリアランス:KD = QB × (CB – C0) / CB
となります。

拡散クリアランスを規定する因子

拡散クリアランスは前述のように、
KD = QD × CE / CB
KD = QB × (CB – C0) / CB
と表すことができます。
すなわち、①QD、②QB、③それ以外の要素、という3つの因子が拡散クリアランスを規定するものになります。
ここでいう③それ以外の要素、というのは膜の性質によるものが多く、「KoA」という値に集約されます。

KoAというのは
Ko:総括物質移動係数(対象となる溶質が透析膜を移動する速度)に、
A:膜の表面積
をかけて算出される値であり、単位としてはmL/hになります。

まとめると、
・拡散クリアランスを規定する因子は①QD、②QB、③KoA、の3つである
・いずれも単位はmL/hである
ということです。

濾過クリアランスを規定する因子

濾過クリアランスは前述の通り、
濾過クリアランス:KF = QF × CE / CB、と表せます。

すなわち、①QF、②CE / CB (→ふるい係数(SC))
で規定されます。

クリアランスの原則

「クリアランスは最も遅い流量で決定される」という原則があります。
持続的血液浄化においては、QB >> QD, QF、であるためクリアランスにおいてQBが関与することはほぼないです。
間欠的血液浄化においては、QB ≦ QD、となるためクリアランスにはQBもQDも関与します。

間欠的血液浄化におけるクリアランス

①拡散クリアランス

前述の通り、拡散クリアランスを規定する因子は、①QD、②QB、③KoA、の3つです。
間欠的血液浄化ではQD = 500mL/h、QB = 200 mL/h、という値が一般的です。

小分子においてはそれぞれの分子がそれなりに速いスピードで膜を通過するためKoAは高い値であることが多く、
QB < QD < KoA
という関係性が成り立ちます。
「クリアランスは最も遅い流量で決定される」という原則に基づくと、小分子においてはQBがクリアランスの規定因子になると言えます。

中分子においては分子の進行速度は遅く、
KoA < QB < QD
という関係性が成立し、
中分子においてはKoAがクリアランスの規定因子になると言えます。つまり膜の性能に依存するということです。

②濾過クリアランス

濾過クリアランスを規定する因子は、①QF、②CE / CB ( = SC:ふるい係数)、の2つです。
この中でSCは中分子程度であればほとんど1に近い(→血液と透析液の濃度が等しくなる)ため、あまりクリアランスを左右することはありません。

問題はQFで、確かにQFが高いほどクリアランスはよいのですが、透析の手法によってはあまりにQFが高すぎると血液が濃縮してしまいフィルターの効率が悪くなってしまうため、QFの値にも限度があります。
概ねQFはQBの1/3程度が限度と言われており、その範囲内で設定をします。

持続的血液浄化におけるクリアランス

CRRTにおいては、CB >> QD、です。つまり透析液は血流が速く過ぎ去っていく中で滞留しているような状態です。膜移行性のよい小分子であれば「CE / CB ≒ 1」となり、膜移行性の悪い中分子などであればそもそも拡散におけるクリアランスは期待できません。

クリアランスは「K = QE × CE / CB」であらわせれますが、CE / CB ≒ 1であることを考えると、KはほとんどQEで規定されると考えられます。

全く同様のことが拡散のクリアランスや濾過のクリアランスに対してもいうことができます。

すなわち、
全体のクリアランス(K) ∝ QE
拡散のクリアランス(KD) ∝ QD
濾過のクリアランス(KF) ∝ QF
と表せます。

クリアランスが適正か?

いままで設定したクリアランスが適正なのかを考えることも重要です。ここで指標とすべき項目は
①標準化透析量 (Kt /V)
②尿素除去率(URR)
の2つです。
この2つのパラメータのいずれもBUNで透析効率をみております。その理由としては、尿素は細胞膜を自由に移動することができ細胞内・細胞外・血管内に均一に分布している物質であること、一般採血で簡単に測定できる項目であること、が挙げられます。

標準化透析量 (Kt /V)は
Kt / V = -log (R – 0.08×T) + (4.5 – 3R) × QUF / BW
(R: 透析後BUN / 透析前BUN, T: 透析時間(h), QUF: 除水量, BW: 透析後の体重)
になります。
複雑な式で暗記する必要は全くありませんが、簡単にいえばKt / Vは尿素のクリアランスと透析時間によって規定されている、という理解でよいかと思われます。

尿素除去率(URR)は
URR = (透析前BUN – 透析後BUN) / 透析前BUN
で表せます。

中でもKt / Vは一般的に用いられている値であり、至適な値については議論の別れるところではありますが、
Kt / V > 1.2
という基準が一般的です。

一般的な設定

以下のような設定でやることが一般的です。

CHDFでQD>1000mL/hのものをHigh Flow CHDF、QS>1000mL/hのものをHigh volume CHDF、と呼びます。
一般的な透析設定よりも効率がよいとされておりますが最近ではHigh Flow/Volume CHDFでは死亡率を改善しないという報告も多いです。
しかしこれらの研究はほとんど海外からの報告であり、いずれも25-40mL/Kg/hなどが研究対象になっています。日本の設定はこれらに比べるとややマイルドになっており、「High Flow/Volume CHDFの効果は乏しい」というのはそのまま日本で適応できるかというと微妙なところです。

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