呼吸不全

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呼吸生理

呼吸器の主な目的は、
①外界から酸素を取り込み末梢組織へ届ける(:いわゆる酸素化)
②末梢組織で産生された二酸化炭素を呼出して排出する(:いわゆる換気)
の2つになります。これはまあ、当たり前ですね。。。

呼吸器系のシステムは、
①コントロール系:中枢神経、化学受容体、機械受容体、など呼吸の回数や様式をコントロールするシステム
②駆動系:末梢神経、呼吸筋、胸壁、気道、など肺胞に空気を出入りするために仕事をする部分
③ガス交換系:肺胞、間質、毛細血管、など実際にガス交換を行う部分
の3つに大別できます。

このいずれかが障害されると呼吸不全をきたします。

分類

1型呼吸不全:PaO2 ≦ 60 Torr、かつ、PaCO2 < 45 Torr
2型呼吸不全:PaO2 ≦ 60 Torr、かつ、PaCO2 ≧ 45 Torr

と分類されます。
高CO2血症を伴わない1型呼吸不全、高CO2血症を伴う2型呼吸不全、に大別するというものです。
国家試験にも出るくらい基礎中の基礎ですが、臨床の現場でもしっかり区別して対応するということが重要です。

低酸素血症をきたす4つの病態

低酸素血症は酸素化の問題であり、コントロール系や駆動系のトラブルにより十分に空気が肺胞内にはいっていかないか、あるいはガス交換系のどこかに異常があるか、のいずれかで発生します。(要は全部ということ)

低酸素血症の原因として、生理学的に4つの病態があります。ただし例えば肺炎やCOPD急性増悪などの一つの疾患が、複数の生理学的異常をきたしていることもあり、一対一対応になっていないことがややこしい、、
しかしどのような生理学的異常がどのくらい悪さをしているかを考えることは治療において非常に有用です。

4つの生理学的異常とは、
①換気血流不均等 (V/Q mismatch)
②シャント
③拡散障害
④肺胞低換気
です。
このうち①~③はガス交換系のトラブルであり、④はコントロール系や駆動系のトラブルです。
順番に解説していきます。

換気血流不均等 (V/Q mismatch)

V/Q mismatchとは、肺胞において換気(V)と血流(Q)のバランスが取れていないものを指します。
V/Qが高いものと低いものがあり、それぞれHigh V/Q, Low V/Q、といったりもします。

そもそも肺においては無数の肺胞が存在し、正常肺においても、V/Qのバランスがよい部分、High V/Qになっている部分、Low V/Qになっている部分、が混在しています。肺全体でみたときのV/Qの正常値は0.8ですが、肺上部(Zone1)は3程度と高く、肺中部(Zone2)は正常に近く、肺下部(Zone3)は0.6程度と低い、というバランスになっています。

しかし病的肺だとHigh V/QあるいはLow V/Qの部分が増え、結果として全体的にV/Qが正常値から外れるようになってきます。

High V/Q, Low V/Qに分けて解説していきます。

High V/Q

V/Qが高くなるということは、V(換気)が異常に高いか、あるいはQ(血流)が異常に低いか、のどちらかです。
前者は肺気腫により肺胞が過膨張した、あるいは過度な陽圧換気、などで生じます。
後者は肺塞栓、心拍出量低下、肺気腫により肺胞の毛細血管が破綻した、などで生じます。

High V/Qは究極的には死腔(dead space)に行き着きます。
死腔とは、「空気の出し入れはあるが血流がなく換気にかかわることがない」部分のことであるため、High V/Qになることもうなずけます。

患者さんの呼吸努力が強く、浅くて速い呼吸になってしまうような状況でもHigh V/Qになってしまいます。これは、浅くて速い呼吸ではガス交換系にたどり着ける空気量が少なく、解剖学的死腔 (ガス交換に関与しない「鼻腔・口腔~終末細気管支」の部分) が増えるためです。

Low V/Q

V/Qが低くなるということは、V(換気)が異常に低いか、あるいはQ(血流)が異常に高いか、のどちらかです。
前者は肺胞内が空気以外のなにかによって埋められた状態で起こりえます。肺炎、肺胞出血、心不全、ARDS、などがこれに該当します。
後者の場合はあまり問題になることは少ないです。

Low V/Qは究極的にはシャントに行き着きます。これについては後述します。

ほとんどの低酸素血症の原因が何らかの機序によってLow V/Qが起こりえます。低酸素血症では必ず考えるべき病態です。

シャント

シャントとは、換気をしてくれる肺胞を経由することなく血液が通過する部分を指します。
つまり、血液は流れているものの、換気がない、という状態であり、「V/Q ≒ 0 」となります。
Low V/Qの行き着く先、というのはこのためです。

そのためシャントをきたす原因としては、
①Low V/Qをきたすような、心不全、肺炎、などが悪化してシャントになる
というのが挙げられます。

その他、
②肺動静脈奇形、卵円孔開存(PFO)、心房中隔欠損(ASD)など、解剖学的に右左シャントがある
というケースでもシャントを起こします。

シャントではそもそも肺胞と血液が接する部分がないため、「FiO2を上げても酸素化は改善しない」、というのが一般論です。

拡散障害

肺胞と血管の間に換気を妨げる何らかの物質があることにより起こるものです。
代表的なものは間質性肺炎ですが、心不全でも間質の浮腫をきたし拡散障害をきたします。

肺胞低換気

英語でいうとAlveolar hypoventilation
名称から考えるとややこしいですが、、、肺胞にたどり着く空気量が少なく、肺胞での換気量が低下するために起こるものです。

原因としては、
・中枢神経障害
・薬剤による呼吸中枢抑制(麻薬など)
・神経筋疾患
・呼吸筋疲労
・胸郭異常(肥満など)
・気道閉塞・狭窄(COPDや喘息も)
などが挙げられます。

低酸素血症の原因の中では唯一換気機能に問題は起こっていない(→肺胞や血管に機能異常がない)ため、A-a DO2は開大しない、という特徴があります(→詳細はこちらの記事をご参照ください)。

高二酸化炭素血症の病態

高二酸化炭素血症は換気の問題であり、基本的にはコントロール系や駆動系のトラブルであるといえます。

肺胞などガス交換系に異常があっても高二酸化炭素血症をきたしにくいのは、二酸化炭素は拡散しやすいためです。一度肺胞に到達して空気が血液と接触することができれば、血液中の二酸化炭素は速やかに肺胞内の空気に分布し、肺胞内と血液内の二酸化炭素分圧は同じになります。

しかし重度のV/Q mismachにより死腔やシャントが増えることでも起こることがあるため、高二酸化炭素血症→ガス交換系以外の問題、と結論づけるのはやや早合点かもしれません。さらにV/Q mismatchをきたす疾患が長期経過の末に呼吸筋疲労が起こり駆動系のトラブルとして肺胞低換気に至る場合もあるため、最終的には多くの疾患で高二酸化炭素血症をきたしうると考えられます。

呼吸不全の治療

人工呼吸器管理でもよく言われることですが、
・低酸素血症 → FiO2、PEEPを上げる
・高二酸化炭素血症 → 呼吸数(RR)、一回換気量(TV)を上げる
というのがセオリーです。

しかし病態によってはこれによる反応性も異なり、対応が変わってくるので注意が必要です。

FiO2への反応性

肺胞低換気、拡散障害、high V/Q、軽度のlow V/Q、であれば酸素投与によりFiO2を上げることにより、酸素化はある程度改善されます。

しかし重度のlow V/Qによりシャントになった場合や、解剖学的なシャントがある場合は、FiO2をあげても肺胞と血液が接する場所がないため酸素化は改善しません。

酸素投与への反応がいまいちな場合にはLow V/Qが悪化したためなのか、あるいは背景に卵円孔開大や心房中隔欠損など解剖学的シャントがあるのかを鑑別するため、マイクロバブルテストが有用です。

マイクロバブルテストは末梢静脈から生理食塩水9mLと空気1mLを撹拌したものを注入し、心エコーでマイクロバブルが左房内にみられるかを見る試験です。マイクロバブルは通常、末梢静脈→右房→右室→肺動脈→肺に移行し、肺で吸収されますが、心臓における右左シャントがあれば、末梢静脈→右房→左房、と移動する経路が存在するため左房内にマイクロバブルが見られるようになる、というものです。

PEEPへの反応性

低酸素血症に対してPEEPが有効なのは、ほとんどの低酸素血症の原因が low V/Q によるものであり、これに対してPEEPをかけることで、虚脱した肺胞を開き、換気(V)を増加させることにより、 low V/Q を改善させることができるためです。

たしかに多くの症例でPEEPをかければ low V/Q が是正され酸素化が改善します。
またその他の病態でも、PEEPにより恩恵を受けることがあります。

・肺胞低換気のうちCOPDや喘息など閉塞性肺疾患では、肺の過膨張による圧で末梢気道が閉塞してしまうため、PEEPをかけることでそれが改善する
・拡散障害ではPEEPにより平均気道内圧が上がり、多少酸素化が改善する

PEEPをかけても酸素化が改善しないようであれば、以下の原因を考える必要があります。

①解剖学的シャントがある
→high PEEPにより肺胞が引き伸ばされ、肺血管抵抗が増大し、右左シャント血流が増加するため。

②PEEPをかけても正常な肺胞が引き伸ばされるだけで、虚脱肺胞の含気は変わらない
→正常肺胞の肺血管抵抗が増大して血液が流れにくくなり、虚脱肺胞への血流が増加するため、換気効率が悪くなる。

③high V/Qが背景にある
→PEEPによりさらに肺胞の過膨張が起こり、換気(V)が増大し、病態が悪化する

④PEEPにより静脈還流量が低下し、心拍出量が低下した
→末梢組織に酸素を運ぶ血液が少なくなってしまう。いわゆるDelivery O2が少なくなってしまう(→詳細は別記事)。

まとめ

・呼吸不全の病態は主に4つ。①V/Q mismatch、②シャント、③拡散障害、④肺胞低換気。
・V/Q mismatchはHigh V/QとLow V/Qに分類され、High V/Qは肺塞栓や肺気腫が、Low V/Qは肺炎や心不全など肺胞の中に邪魔なものがあることが原因で生じる。
・シャントはLow V/Qの成れの果てか、あるいはPFO/ASDや肺動静脈奇形など解剖学的右左シャントが原因。
・拡散障害は肺胞と血管の間になにかある時に起こり、間質性肺炎や心不全が原因。
・肺胞低換気はガス交換系以外の部分に異常があると起こる。

・高二酸化炭素血症は拡散障害以外では起こりうる。
・A-a DO2は肺胞低換気で正常値になるが臨床での有用性は少ない。
・FiO2を上げてもシャントがあれば酸素化は改善しない。
・PEEPを上げてもHigh V/Qや解剖学的シャントがあれば酸素化は改善しない。

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